水滴
世の中には、自分が病気だったんだってふと気付いた事がある人が、いったいどの位いるんだろう。
こんなに一生懸命生きていて、誰も悪くなくて全部自分の中の問題だった。

こんなに苦しいのに、戦ってたのは現実じゃなかった。

なのに辛いのは本当。

どんな気分ですか。

この質問に何度も答える様になったのはいつの頃だったのか。
知ってる人ならピンとくるであろうフレーズ。
苦しいのに決まってるじゃないかって、悲しいのに決まってるじゃないかって言いたい。
理由は沢山有るようで、一つもない。
つらつら出る言い訳の様な言葉達。

どんなに混乱しても、思う事は大体同じ。
楽になりたい。
生きたい。

矛盾してるけど、今も昔も変わらない。

大切な人を傷付けて欲しくない。
だから私は私にできる事をした。
私が居なくなればいい。
選択の余地はなかった。

死にたかったんじゃない。
生きたかったんだ。

誰か解る人はいるのかな。
聞いたことないから解らないや。

ぼんやりとした記憶しかない。
看護婦さんが起きましたよと言った気がした。
暴れた気がした。
手足が拘束されてる事に気付いたのは大分後だった。

おむつ変えますよと看護婦さんが言った。

若い医者は若くてへたれだった。
看護婦に隠れてた。私が怖かったんだろうか。

記憶がうっすらとしかない。

姉が小さな人形のおもちゃをくれた。
後でなんでこんな物持ってるんだろうって思った。

大分おしゃべりになった。
今まで思っていた言葉がすらすら出てきて気分が良かった。

何をしゃべったかはまったく覚えていない。

点滴をしてるから、トイレに行くのが大変だった。
何度も行ったり来たり。

食事の記憶はない。
母が付き添ってくれていたのは覚えている。

靴がなくて病院のスリッパで帰った。
私はそれが怖かった。
憂鬱だった。

生きたかった。
楽になりたかった。

矛盾していてる。なのに自分の中では間違っていない。

毎日が戦いだった。必死に生きた。
悲しくて泣いてばかりいた。

その理由が現実の問題じゃなかったなんて、誰が思う?

甘えるなって自分を責めていた事柄全部、現実じゃなかった。

現実に気付いた時、病気に気付いた。
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