水滴
私と母は仲が良い方では無かった。
と言うよりは、性格的に合わないと言った方が正しい。

あまり恵まれない家庭で育ったらしい母は、頑固な強さを持っていた。
明るく、いつも前向きな考えを持ち機上に振る舞った。
他人に同情などせず、建設的な思考を大切にし頑張れとは言わないが挫折を挫折と認めない。

忍耐で自分を支える様な人間だった。
そういう生き方をしてきた人だった。

ツツジの花が好きだった。

私はあまり好きではなかった。あの花のどこに魅力を感じるのか理解できなかった。

その花と同じ様に母を理解できなかった。
お前は悪い子だと毎日どなりつける母。
いつも私の失敗を待ちかまえているかの様に毎日毎日。
食卓は私の苦手な物が頻繁に出た。

苦手だと言ってもすぐに忘れてたと言う。
母が私の苦手なものを認識したのは離婚してからだった。

もう成人して家も出てたから、認識して貰っても特にメリットは無かったが。

そんな母は、私に中退を勧めた。
というよりは決まっていて、それに逆らう事ができなかっただけの話だけど。

私は18になっても親に意見のひとつも言えない様な人間だった。

初夏のツツジが美しいことに気が付くのは、当分先のことだ。

私は母にとって理解しがたい存在だったのだろう。
それでも親子というものは不思議なものなのか、母の努力の結果なのか、私が本来の自分を取り戻したのか。
つかず離れずそこに母はいて、自然に距離を縮めていった。

ツツジが咲くのが楽しみになる位に。

私は、大半の子がそうで有るように親を憎めなかったが遠い存在だと思っていた。
今は、諦めていた私という人間を理解して貰う事に時間を費やしている。

それには病気のことを理解して貰うことが必要だ。
母はまったく理解がない人だ。
風邪を引いたと思えと言われた。その内治るから安心しろと言いたかったのだろう。

精神病は治らない。
状態が良くなっても、完治はあり得ない。
一回なればそこまでなのだ。いつどこでバランスを崩すか解らないから怖いのに。
再発を防止する事が最優先な生活を一生送るのだ。
彼女はその事実を受け入れてくれるだろうか。
はたして、受け入れられるのだろうか。
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