水滴
ぐらつくのは一瞬。
またもとの現実に引き戻される。

それが少しだけ寂しいと思うけれど、安心もする。
妄想って、自分の内側にこもってる事だから有る意味楽なのだ。
病気って異常だけど自然なことで、大変な毎日をやり過ごす一種の手段でもある。
器用に生きられない素直な人たちが、狂ってるって目で見られるのは少し悲しい気もする。

ぐらつくのは本当に一瞬で、物音が不思議な音に聞こえたり、世界が歪んだりする。
そしてさっきのはなんだって思う。
またかって。

こんなのがずっと続いていて、本当よく死ななかった。
我ながら不思議だ。なってる時は確かに辛かったし、地に足がついていない危険な状態だったけど、友達も居たし恋人も居た。
親以外、誰も異変を指摘しなかった。
地元に帰った時に友達に会って、気付いていなかったのだろうかと未だに小首を傾げる。
変なのはいつに始まった事ではないとでも思ってたのだろうか。

とにかく、私は表面上は普通に見えていたらしい。
内面の不安定さから、人間関係を築くのが難しい面もあったけど私は後ろは向かなかった。
なぜか向けなかった。

あの事件があって学校を辞めさせられた。

私はフリ-タ-になった。最初こそは人と接しない仕事を選んだが、接客業に近い仕事もしたし、今では仲間も沢山いる人間と密着した仕事をしている。

学校時代は友達も作りたく無かったし、人と接するのが怖かった。
下ばかり向いていた。
なんだか、本当は人恋しかったのがばれてしまった様な気恥ずかしい気分になる。

病院から寮に帰宅したら、うるさかった隣の住人が、辞めるらしいと噂していた。
寮長夫婦は私が居なくなってほっとしてる様に見えた。

私は鏡だから、ほっとしていたのは本当は自分だったのかもしれない。
ただ、今までに見たことのない笑顔だねと言われた。

私はそこが好きだった。息苦しいし過ごしにくいし、夜は眠れないし学校はうるさいし。友達いないし。なじめなかった。
下しか向けない陰気な人間になった。

上手くやれなかったけど、下町のごちゃごちゃした雰囲気、だだっ広い公園。
くすんだ空気。沢山の古本屋。

なじめなかったのが、今でも心残り。

病気に気付かなかったからかな。正気じゃなかったから、皆と同じ様になれなかったのかな。

本音はそこなのかも。
< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop