ガラスのタンポポ
オレの知る限り、こんなオトばあは初めてだ。


認知症と言ってもオトばあの場合、オムツの交換に手間取る事はあっても、車椅子を使わなきゃならないので徘徊もなく、日に何度も食事をせびる事もなく、薬をきちんと飲み、大人しいタイプの病人だった。


「おばさん、いつから?」


「10分くらい前から急に…。四つん這いで部屋中メチャクチャにして、理由はわからないけど悲鳴を上げ続けてるの。でも、大丈夫よ。薬さえ飲んでくれれば落ち着くと思うから。奏来を連れて行ってきてくれる?」


オトばあの悲鳴は続く。


奏来は大丈夫、大丈夫と言いながら、オトばあの背中をさすり続けている。


「ヒィーーーッ!!ウッ…ウッ…オエッ!」


極度の緊張からか、オトばあが布団の中で吐いてしまったのを奏来とおばさんが始末する。


オレは急いで真之に電話した。


『もっしー、翔?』


「あ、真之ごめん。オレなんか急に腹の調子が悪くて、さ」


『ハハーン。腹でも出して寝冷えしたか?』


「ごめん。今日キャンセル」


『エリも内海と遊ぶの楽しみにしてたんだけどなー。ま、調子悪いんじゃ仕方ないな。また今度、4人で遊ぼうぜ』


「あぁ、ホントごめん。じゃあ、また今度な」
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