ガラスのタンポポ
「翔、長丁場になる。そう張ってばかりもいられないぞ。奏来だって耐えられない。気持ちを無理矢理でも違う方向へ持っていけ」


「…わかってるさ」


それ以外、言いようがなかった。


兄貴の言う事はもっともだけれど、オレ達はそんなに簡単に気持ちを切り替えられる程、大人じゃない。


たった数十分前までの惨劇を拭いきれる程、大人じゃない。


それなのにおばさんは、奏来を綺麗な浴衣姿に仕立て、オレ達を急き立てた。


「紺地に橙の花か。さっきのもいいけど俺はこっちの方が好きだよ、奏来」


兄貴は奏来の手を引き、玄関で下駄を履かせた。


「行ってらっしゃい、楽しんでくるのよ」
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