ガラスのタンポポ
「しょ…翔ちゃん…?」


奏来が少し驚いたような声を出し、大きな瞳でオレを見上げる。


「翔ちゃん…?」


「奏来はいい。悪くない。何もしなくていい。オレのここんトコロでずっと笑ってればいい。何も失くすな。長い髪も心も。オレといよう。今までとは少し違う形で。奏来は…奏来は今からオレのもの。いいだろ?」


「…わからないよ。ソラはソラ、翔ちゃんは翔ちゃんだもの…」


「違うよ。今から2人で1つなんだから。奏来はオレの彼女だから」


奏来は何も言わず、肯定とも否定ともとれない目の色をしていて。


ゆっくりと瞬きを1つしただけだった。


「…おばあちゃんが帰ってくる…。ソラ、帰らなきゃ…」


「うん、わかったよ」


鞄を取りに教室へ戻り、バスに乗って家に帰った。


奏来は何も言わない。


それでもオレは充分だった。


静かな雨の音が奏来の声に聞こえたから。


『翔ちゃん、ありがとう…』
< 87 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop