ガラスのタンポポ
「行く、よ」


迷いとは逆に奏来を求める本能が答えを出していた。


奏来を失いたくないっていうオレの奥底から伸びる手、叫ぶ声。


「わぁ♪楽しみだなぁ!ソラ、お母さんと早起きしてたくさんお弁当作るねっ」


「うん、期待してる。兄貴、どこ行くつもりしてんだろ」


「ソラ、海がいいっ!」


「うん、海か…」


「どしたの、翔ちゃん。海嫌い?」


「いや、奏来が行きたい所ならオレが一番に連れてってやりたいと思って、さ」


「うん…。でもきっと楽しいよ?おばあちゃんもきっと喜ぶ!」


「だな」


「早く本借りて、家帰ろうよ?おばあちゃんに知らせなきゃ」


「うん」


奏来が借りたのは、やっぱり介護に関する本で。


でも一冊だけ混じった料理本がオレには痛かった。


奏来が楽しみにしているのは何なのか。


割り込んできた兄貴に怯える自分を自覚するのが痛かった。
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