黒紅花
「ううん

 ひさぎ、お仕事頑張ってね
 あんまりムリしちゃダメだよ」

「ああ

 チトセ、明日、会えないか?」

「ごめん!明日はちょっと」

「ああ、おばあちゃんと買い物

 それって、夜でもムリ?」

「うん、しばらくは……ムリ
 夜の外出も控えなきゃ」

何言ってるんだろう、私?

これがひさぎとの最後の電話なんでしょう?

ひさぎに、もう二度と会わないと
言わなきゃいけないのに……

これが最後だと思うと余計に言えない。

言っても言わなくても貴方を苦しめるなら
私は言わないでおく。

そう、私は、ものすごく卑怯で穢い。

だけど、落胆する貴方の声を聞く勇気がなくて……

「ごめん」

「いいって、そうだよな
 無断欠席がばれてないとは言え
 心配させるような事しちゃいけない

 それに、本当のところ
 俺も早く仕事覚えたいんだ

 しかたがない、しばらくはお互いに
 我慢しよう」

「うん」
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