黒紅花
「嬉しかったの、家族ができるって

 広い家に、いつも独りぼっち
 だったから……

 それなのに、幸せってね
 一度に消えてなくなるんだよ」

在ったはずのものが無い

それは途轍もなく悲しい……

その、か細い声を聞いて、とても遣る瀬無い。

「チトセ

 今もその先輩の事が好きなの?」

「ううん、そうじゃない

 ただ、申し訳なくて……」

「赤ちゃんに?」

「うん、愛し合った先に何が
 あるのか知らなかった私は
 無知で無責任だった」

「チトセ、無責任は違うよ!
 
 責任取ろうとしたじゃない
 彼と二人で産んで育てて
 行こうって

 だけど結果、不幸なことに……
 
 それにチトセ
 間違えちゃいけないよ

 その件に、あなたが幼いだとか
 無知だったからだとかそんな事
 は関係ない
 
 16歳も26歳も同じだよ

 うまくいかないこと世の中には
 たくさんある

 思い通りに行かなくて苦しい事
 たくさん」
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