黒紅花
ひさぎが昔乗ってたバイクより、大きい。

「チトセ、じゃあね
 
 気をつけて」

なぎと別れた後----

私の背を見送ってくれていたなぎが、もう一度店内に入って行ったことを私は知らない。

店内、深く腰掛けた男性は、テーブルの上、帽子をギュッと握りしめる自分の手をただ見つめている。

端正な横顔、声をかける女の子達。

「あのぅ、お一人ですか?
 私達と一緒に……」

「ごめん、そこ退いてくれる」

女子の間に割り込み、テーブルにドカッと鞄を置くのは、なぎ。

テーブルを挟んで、男性の前の椅子に腰かけた。

「ヒサ兄、お久しぶり

 それでだけど

 聞いてたんでしょ、どうするの?」

「……」

「元カノなんかに手出してほんと
 バカな奴だと思ったけど
 
 ヒサ兄、アンタってば
 もっと大バカだったんだね

 何か言い返せば?」

「ああ、……だな

 マジ、言葉も出ねえわ」
< 343 / 409 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop