黒紅花
『貴方に触れたいけど
 触れられない
 
 私、怖いの
 こわい……』

『や、めて……

 イヤ』

『チトセ
 俺の傷、見ただろう?
 
 だったら、今度は
 お前の傷、見せてよ?』

怯えるあの日の君に、僕は何をしてあげられただろう?

自分の傷しか見ていなかったあの日の僕は、君にとって残酷だったに違いない。

「くそっ!」

千歳に何かあるとは思っていたが、俺は自分の事だけで精一杯で……。

『彼は愛を温もりを求めてる』

俺は、なんて不甲斐ない男なんだろう。

愛する人に、それ以上もっと深い傷をこの俺がつけてしまった。

「ヒサ兄、悩んで落ち込んでる暇が
 あったら、これからどうすべきが
 よーく考えな

 まさか、チトセのこと(事情)知って
 見放す気じゃないでしょうね」

「誰が見放すかよ!

 バカなこと言ってんなよ」

なぎの事を睨み付けるひさぎの赤い目はとても強く、正気を取り戻す。
< 344 / 409 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop