DEAREST...
今まで1度も言われたことのない言葉。

嬉しくて嬉しくて
あたしは夢を見ているようだった。


ずっと抱えこんでた家のこと

学校や友達とのこと

さっきれいちゃんが見せた涙

彼の笑顔と言葉に
あたしは力が抜けて急に涙が出てきて止まらなかった。


そんなあたしを
彼はギュッと抱きしめてくれた。

初めて人の温かさに触れた気がした。


中学の時
あまりに辛くて
“泣いて帰れば
きっと慰め励ましてくれるだろう”と

助けを求めるように家に帰っても
抱きしめてさえくれなかった母。
泣いてるあたしにどう対応していいかわからなかった父。
短大卒業を目の前に、就職が見つかり
仕事、仕事で忙しく家にいなかった兄。


人の温かさに触れたことのなかったあたしは
初めて幸せを感じた。


彼はあたしを車に乗せ、綺麗な景色が見える山へ連れて行ってくれた。


けれど幸せに思ったのも束の間、
ハンドルを握る彼の左手薬指の指輪が気になった。


彼女がいるの…?

結婚しているの…?


でもあたしはそんなことよりも
また彼に出会い、こうして一緒にいられることが嬉しくて
指輪のことはそれ以上深く考えなかった。
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