仮面舞踏会【短編二編】
『なに?これ!こ・・・・こんな気味悪い顔!私じゃない!』

絵梨香は、もう見たくないという仕草で手鏡を占い師に返した。

『彼は、あなたのこの姿を見てしまったのでしょう。』

絵梨香は、占い師の言葉をまったく理解しようとはしなかった。

『わかりました。私、反省してみます。だから、

もう一度だけ過去へ行かせてください。お願いします』

絵梨香は深く頭を下げて頼み込んだ。

『そう願うのでしたら二階へどうぞ』

『二階?』

『この部屋は、水晶占いの部屋 

二階の部屋はタロットと過去への扉。

そして未来への扉・・・・』

『未来?未来にも行けるの?』

『未来へ行けるのは、選ばれたごくわずかな方だけです。

では二階へどうぞ』

絵梨香は、占い師を振り返ることもなく部屋を出て二階への階段を上り始めた。

踊り場で左右に別れている階段を、

以前と同じように右側の階段を上り、真鍮のドアを開けた。

『あの・・・・』

その部屋は以前と何も変わらなかった。

ただひとつ・・・

マホガニーブラウンのチェアーにはアンティークドールが座っていた。

巻き毛とビー玉のような大きな瞳、長い睫毛・・・

今にも動きそうなほど見事な人形だ。

『いらっしゃいませ・・・・』

あの時と同じように老婆が部屋の中央に座っていた。

『実は・・・・・』

『過去でも彼の心を取り戻せなかった』

『そう・・・・そうです。

努力・・・したのですがダメでした。

でも、なぜ彼が私を嫌いになったのかわかったんです。

だから、もう一度だけ私にチャンスをください。

どうしても過去へ行って彼に言った嘘を訂正したいんです』

『言ったはずです。過去に戻れるのは一度だけ。

でもどうしてもというのなら・・・・・』

絵梨香の表情が明るくなったのを、老婆は見逃さなかった。
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