仮面舞踏会【短編二編】
占い師は頷いた。

『そう・・・でもこの薬は使い方を誤ると厄介なことになります。

絶対にあなた以外の人に飲ませてはいけません』

『私にしか効かない・・・薬』

『そう・・・人は自信を持つことによって内面の美しさが表に滲み出てきます。

この薬はその手助けをするための物。

美しくなったからといって安心してはいけません。

薬を飲まなくなれば、もとに戻ってしまうのですから・・・

でもたったひとつだけ、

薬を飲まなくなっても効力が持続する方法があります。

それはあなたが見つけてください』

女性は、まじまじと袋の中身を見た。とても小さな赤い粒が入っている。

『これ・・・いくらなんですか?』

そう言って顔をあげた時、占い師の顔がさっきよりも若く見えた。

(気のせいかしら?)

『それは、売り物ではないのでお金は結構です』

『そんな・・・では占っていただいた分のお金は?』

『1000円いただきます』

女性は耳を疑った。

『ほんとに1000円でいいんですか?』

『はい』

女性は申し訳なさそうに1000円を払うと街の中へと消えていった。

占い師は、さっさと片付けて店仕舞いすると、

女性とは反対の方向へ歩いていった・・・波打つ美しい髪をなびかせながら・・・。

片側3車線の国道へ出ると、道路に人だかりが出来ている。

それを避ける乗用車が四苦八苦しているため、後続車両が渋滞していた。

皆が諦めたように口々に言っているのを聞くと、どうやら即死らしい。

さっきまで占い師だった美しい女は、その人だかりに囲まれている人が

どんな人なのか見なくてもわかっていた。

男は薄らいでゆく意識の中で、さっき占い師に言われたことを思い出す。

『何か占ってくれ』

『お断わりします』

『何故だ?』

『あなたさまには必要ないからです』

そこで、男の意識は完全に無くなった---――――。




女は、事故現場を振り返ることなく、

さっそうと歩いてクリスマスイルミネーションの眩い光の中へと姿を消した。


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