以心伝心! 志氣高校 洋将棋部
 「なんとか言いなさいよ」
 という姉の一声が、僕を現実に引き戻す。


 僕はワザと忙しそうに包丁を動かして、
 「お姉ちゃんとおなじで、青春したかったんだよ」
 と言い訳をした。

 
 それ意外に言い様はなかった。

 「ふぅん」
 姉は思いの外、納得したようでもあった。彼女は再び、スツールの上に指を広げネイル・ケアを始めた。もう何も言ってこなかった。多分、大学のコンパの事に頭が移っていたのだろうと思う。


 僕は少し胸を撫で下ろし、今度はエリンギのスライスを始める。

 
 ………でも、そうして自身に対して平静を装っても……

 「…くそ……」

 僕の中で新たな衝撃が浮上していた。

 その衝撃は、まるでカーペットに零されたブドウ・ジュースのように、僕の心を妖しい紫色に侵食していった。
 僕は気付いてしまったのだ。

 「両親が嫌いだったのではない、“両親が代表する僕を包む世界全て”が……嫌いだったのだ」と。

 

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