スキさ
彼はホームレスなのだそうだ。
あたしはためらったけど、彼を家に入れてしまった。
すこし同情したからだ。こんな寒い日に、家がないんだから。
まるで捨て猫を拾った気分だった。
「ねぇ、なんで不眠症ってわかったの?」
部屋の暖房を入れながら、私は彼にきく。
「俺も不眠症だから。」
「不眠症だと、不眠症の人がわかるの?」
「そうそう」
「…え、でも私、不眠症だけどわかんないよ?」
「それはね、君が本当の不眠症じゃないからなんだよ!」
「え!そうなの?」
「嘘だよ」
「え?!嘘なの?」
「嘘に決まってるじゃん」
「なんで嘘ついたの?」
「…ノリ?」
「あれ…もしかしてふざけてます?」
「いえ、別に。……ほんとはちょっとだけふざけてます」
「あんた、なんか嬉しそうね。」
「うん、うれしい。」
…こんな調子だ。
人はこれをカオスとよぶかもしれない。
その日の夜は、こんな感じで、彼についての何の情報も得られず、
良く考えたら、名前すら知らなかった。
ただ知っているのは、
彼が、捨て猫っぽいってことだけ。