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化学反応
タカギは制服の内ポケットに、昨晩作った「退部届」を忍ばせていた。ただ、いつかこうなることはタカギ自身、すでに気付いていた。何故なら、タカギ自身がこのチームに嫌気を覚えていたからであり、自身をサッカー界に売り込むためには、このチームにいる限り無理なことも知っていた。

「ねえ、ケンジ」

ああ?ケンジは適当にタカギに返事をした。片手には空となったコーラが握られている。

「今朝みんな集めて話したけどさ、実際集まると思う?やっぱり難しい気もするんだよね」

どうだろうね?そういうケンジは相変わらず上の空である。

「でもいつかはこうなるだろうって思ったりしたよ」 
ケンジがコーラの空き缶を握り潰し、数メートル先のごみ箱へ投げた。空き缶はごみ箱の淵に当たり床に転がる。

「なるだろう、じゃないだろう?お前も、そうしなきゃいけない、と思っていたんじゃないか?そうしなきゃ試合に勝ち進むことはできないし、そうなると周りに自分のプレーを評価してもらう環境も失う」

図星だった。タカギは自分の胸の内をこうもアッサリ見透かされたことに羞恥心を感じる一方、自分の意志を知ってくれているケンジに少しばかり感謝した。

1年の教室から3年の教室までは意外に距離がある。ケンジとタカギの教室は2号館の3階に位置し、デカたち3年のいる教室は1号館の4階にあるため、歩くと7.8分ほどかかる。

「そろそろ行かないと」

タカギがケンジにそう急かす。ケンジは相変わらず気怠そうに返事をする。

「昨日直接辞めるって言ったからいいじゃんかよ。もう終わりってことにしようぜ。そんな形式張るなよ、退部届なんて内ポケに入れてないでさ」

まただ、タカギは思った。どこまでケンジはわかるのだろう?学校に来てから一度も退部届は外に出していないのに。

ゆっくりとケンジは椅子から腰を上げ、ゆっくりごみ箱へと向かい、床に落ちたコーラの空き缶を拾い捨てた。

「行くぞ、タカギ」

そう言いつつ、ケンジはすでに教室を出て廊下を歩いて行ってしまった。

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