トップシークレット
ケンジは既存のサッカー部を破壊すると言った。しかし、決してそう簡単に壊せるものではないだろう。何しろ、サッカー部などの部活動は、学校が教育の一貫として行なっているという名目上、存在している。手段はともあれ、それを破壊しようなど学校に対する挑発とも取れる。タカギはそう思い、リスキーなアクションを起こそうとしているケンジに不安を抱く一方、リスクなど無縁であった、自分のこれまでの人生に興醒めした。
            「俺たちの教室とデカたちの教室、いくらなんでも離れすぎだと思わないか?」
ケンジは明らかに行きたくない、といった表情を浮かべタカギに言った。面倒臭いこと、1度やったこと、そして意味のないこと、それらをケンジは心底嫌っていた。「今からデカの前に行って退部します、と言う」これは意味のないこととケンジは判断している。

「ねえ、ケンジ。俺さ、ケンジのこと信じても良いんだよね?」

タカギは前を歩くケンジの背中に問い掛けた。ケンジは黙って歩いている。

「ごめん、なんか俺、おかしな質問しちゃったね」

場の空気を読んだつもりで、タカギは即座に謝った。
「お前さ、何か勘違いしてないか?」

ケンジの言葉に、愚問を発したと思ったタカギは一瞬凍り付いた。

「タカギ、お前さ、俺のこと信じたいんだろ?それだったら自分自身を信じろ。俺のことを信じたい、そう考える自分自身を信じてみろよ。自分を信じられるようになって初めて他人を信じられるようになる」

もっともだった。タカギは「他人」を信じることを美に感じていた。ただそれは「他人」にとっては単なる重荷であり、それは「自分」においては都合の良いもので、エゴの何物でもなかった。

デカのいる教室に着くと、ケンジは律儀に2度、戸をノックし、ゆっくりと扉を開けた。ノックをしたおかげで、教室にいる者たちが一斉にケンジとタカギに視線を送る。そんな視線を浴びながらも、ケンジは一直線にデカの方へと歩いて行き、タカギはケンジから遅れをとらないよう、一定の間隔を保ってついていく。
「どうした、ケンジ」

自席に座っているデカであったが、その威圧感は座っていても十分であった。
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