アイスにキス、
コミュニケーション
冬の寒さに耐え切れず鼻を啜る。
電車の中は勿論暖かいのだが、先程まで歩いていた夜道は寒くて仕方が無かった。
鼻を啜ると、誰かの香水の香りが鼻を掠めた。
バニラだろうか?
この独特の甘ったるい香りは。
ふと辺りを見ると、こんなに寒いのに薄着の女性が居て、同じように鼻を啜り、寒そうにしていた。
香水の香りは恐らく彼女から匂っているのだろう。
寒いなら厚着すれば良いのに、と思ったが女性はお洒落の為に薄着をする人が多いし、そうなんだろうなぁと一人心の中で納得していた。
「…くしゅんっ」
「あの、これ良かったらどうぞ」
「え?」
「……あ」
「あ、」
その女性は、紛れも無く閑香だった。
「こんばんは~!
室井さんじゃないですか」
「そうですが、何ですか?」
「何って、嚔(くしゃみ)したって事は寒いんじゃないですか?
僕のコート、良かったら着て下さい」
「…結構です。
寒さにはなれてま…っくしゅん!」
「ほらほら!風邪ひいちゃいますよ?
意地張らずにどーぞ」
そう言って田村は無理矢理コートを渡した。
すると、タイミング良く下車する駅に着いた。
「じゃあ一緒に帰りましょう。ね?」
「…別に道は一緒なんですから、そんな提案要りません」
「(…)それもそうですね、
じゃあ行きましょう」
「……」
閑香の本音は、正直一緒に居たくないのだが面倒なので一緒に帰る事にした。