アイスにキス、



室井は不服そうだが、田口は気にしないようにして歩いた。

それにしても冬の夜道は寒い。
折角直ったのにまた鼻を啜ってしまう。


「いやー、寒いですねー」


「…上着返しましょうか?」


「あ、そういう訳じゃ…」


「いえ、お返しします。
私の香水の匂いが着いたら嫌でしょう?」


すると田口は一瞬きょとん、とするが直ぐに勘づいたらしく、不安そうに質問した。


「…バニラの香り、ですか?」


「そうですよ。
さっき嫌そうに私の方で匂いを確認してたじゃないですか」


「いえいえ、とんでもない!
さっきは寒くて鼻を啜ってただけですよ」


「…あ」


「?」


そう言って閑香は空を見上げた。
同じように田口も見上げた。

空には綺麗な星がちらほら瞬いていた。


「冬の夜道、寒いけど私は好きです。
星が綺麗だから…」


「うわぁ…!本当、綺麗ですね…
空なんて見上げたの久しぶりですよ、俺」


「私は冬は毎日見上げます。
夏も多少見えるけど、この辺はあまり見えないから」


「そうですねー、
都会はネオンの光なんかで夜でも明るいですから」


話を聞いていると、何だか嚔が出そうになる。


「…っくしゅん!」


「また嚔してる。
…やっぱりコート着て下さい。
嫌なら、これからは厚着して下さい」


「…遠慮します。
どうせもうすぐ着きますから」


「……。
風邪ひいても知りませんよ?」


「知らなくて結構です。
他人なんですから」


「(……)まぁ、そうですけど…」



その後、ヒロインは嚔を何度もしたが田口のコートを借りずに帰宅した。



 
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