トリッティーの壁から手
「チャールズー、いい加減にしないと無理やりつれてくかもよ」
この時、僕の脳裏にある映像が流れた。
それはある朝のこと。
母さんが新聞片手に言った言葉
『また誘拐ですって、怖いわね……大分うちに近いから、チャスも気をつけてよね』
そういってコーヒーを飲む母親。
僕は無感心にパンにかじりついた。
人間は自分だけにはなにも……危険なんて、事件になんて、巻き込まれるはずも関わることさえないと考える。
遠くで爆弾が飛び交ったって自分にはただのニュースだと……。
違う!!
今、僕に直面するなにかがそう叫んでいた。
チャールズ・ブレインはすでに、なにかに巻き込まれている。
体が底冷えするようにゾッとし、気が付くと全力で走っていた。