トリッティーの壁から手
「そうか、チャスだ!」
顔いっぱいに笑みを作り、企みを帽子でくいっと隠す
すると
ボッー。
とシルクハットにみるみる吸い込まれ、付けていた花だけがポツリ。
冷たい石畳に影を残して消えてしまった。
誰も知らない夜のこと。
差し伸べてもいないのに突然現れては引っ張られる。
穴に落ちたと思ったらもうそこは彼等の世界。
甘いキスも、泣きそうなほど切ない包容もすべてが嘘に、毒に、ただのお遊びに、成り下がる。
トリッティーの手によって、トリッティーの口が物語を紡ぎだす。
そんな危険な夜のこと。
チャールズ少年はまだなんにも知らずに、絡まった闇を走って行た。