トリッティーの壁から手
「……あいつ、なんなんだ」
ポツリ、とチャールズは呟いた。
当たり前の疑問だ。
しかしチャールズは覚醒直後のこのエメラルドグリーンの部屋、それに美しい女のなんとも惹き付けられる美声に全く違うパニックを起こしていたものだから、不甲斐なくも誘拐という犯罪を見過ごしていたのだった。
少年は苦々しい顔に眉間に皺を寄せにらみ続けていた。
僕は誘拐された……んだよな?
そっと床についた手を見ても足を見ても、痛いはずもなく、当たり前のように縛られたあともない。
誘拐しておいてこの扱い、目的は?
この場所は?
とにかく、僕をさらったのは間違ない、あいつ……。
その目に写るのは背格好の似た同い年程の幼くも、大人びてもいない少年。
黒いスーツに黒い髪、チャールズの見間違いでなければ目も黒だった。
そしてスーツの裏地は何故だか赤と緑と黄色のチェック柄にも見えなくはない……。
2人の警官が倒れたあと、あいつが笑って……その後がこれか。
鮮明に焼き付いた、少年の憎たらしい笑みだけははっきり思い出せていた。