トリッティーの壁から手
その答えを上から見ていたマレイネスは頬杖をついたまま静かに笑った。
「あの、あのさ、……やめたほうがいい……と、思う。すごく痛がってるし」
その答えは小さく、しかしはっきり前を見据えたブラウンの瞳の少年、チャールズだった。
とたんに足をバタバタさせていたトリッティーの腹がベッドから浮上する。
一度スプリングが鳴くと見えない男性の声がチャールズに向かってささやかれた。
「悪い、今すぐやめよう」
「……はあぁーー、あー苦しかった!」
腹の底から身体中に大袈裟に息を吸って見せた少年、先程のわめいていたのが嘘だったように、トリッティーは首のスカーフを右手の指でゆるめ、ベッドからひとつの重力が降りたのを確認するやいなや、体を起こしてナニかを睨んでいた。
ベッド横のチャールズは、あまりにあっさりやめられたものだから目を丸くして「は、はぁ、ありがとう」などと呟いた。
いじめていた相手にお礼をのべるなんて変だが、悪い人(?)ではなかったみたいだ。
チャールズは肩を上下させて、一度だけ深く息を吐いた。