防衛要塞都市
ヴィンヤードは、リーの胸ぐらをつかむ。


「エリザベスと呼んで、って言ってるでしょう?」


ヴィンヤードの艶やかな声に、リーは一瞬頬を赤らめた。


対するリーはすぐに彼女の腕を振りほどき、制服を正す。


「少佐は我が上官であります。それ故に、私は―――」


「あーはいはい、わかったわよ、もう。で、話の続き。そのセイル上等兵とやらが凄腕ってとこだっけ?」


真剣な声を繕ったリーの言葉に、ヴィンヤードはどうでもよさそうに返答した。


何時の間にか、彼女の手は髪を弄るのに夢中になっている。


「凄腕、と言われましても、たかが一発ずつを的の中心に当てただけでありますから……。」


「あのね、少尉。世界、とまでは言わないわ。でも、あたしたちの守る地下も、結構広いのよ?」


子供に聞かせるように話すヴィンヤードに、リーはただ首を傾げることしかできない。


「井の中の蛙、大海を知らず、井の中さえも知らず。」


「何が言いたいのですか、少佐?」


彼女はニヤリと不気味に笑って、囁いた。


「その子多分、全ての弾丸を的の中心に撃ち込んだのよ。」


ヴィンヤードは立ち上がり、大きく伸びをして、偉そうに腰に手を当てて、


「カシワギのことよ、きっと明日にでも連れてくるわ。」


エレベータへと歩きながら、カールされた茶髪を揺らす女性は右手を上げて言う。


「じゃ、また明日ね“ダーリン”。」
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