マンボウの住む家

「そうね。宙が病気になってからあの人、心を入れ替えたからね。だけどやっぱり……」


語尾を濁す。俺の声のことを心底心配しているのだろう。


大丈夫だって言ってるのに。心配性は昔っから変わっていない。


『声が出ないのは色々不便ではあるけど、生活に全く支障はないし問題ない。それに声が出ないおかげで、言葉で誰かを傷つける心配もないし、これはこれで結構良いこともあるんだ』


思わず微笑む。


言葉を介さない意思表示は相手に伝わりにくいけど、その分自分の素直な気持ちを偽りなく伝えることが可能だ。


そりゃあ声が出なくなった時はショックだったし苦労もしたけど、慣れればどうってこともない。


それに無口なおかげで、クールという印象がついたのか結構モテるようになったし。案外良いことづくしでもある。


だから全然大丈夫。


マンボウは「そう」と一言だけ呟き、じっと俺を見つめてくる。


まるで俺の姿を網膜に焼きつけようとせんばかりの熱い視線。
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