蜜林檎 *Ⅰ*
「わたし、ちょっと・・・」

杏はその場に立ち、御化粧室
へ向かう。
 
鏡に映る自分の姿を見つめて
いると樹とまりあのお互いを
見つめあう姿に変わる。
 
杏は目を閉じて、その光景を
掻き消すように頭を左右に
振った。

瞳を開けると、鏡に
鏡子の姿が映る。
 
彼女は珊瑚色の口紅を
直しながら、杏に言う。

「アンズちゃん
 
 イッキと、マリアはね
 イッキがデビューした当初
 からの付き合いでずっと二人
 ああして隣同士、寄り添って
 今まで歩んで来たの
  
 一度は、お互いの仕事の為に
 別れたけれどあの二人の仲は
 事務所の誰もが公認している
 のよ
  
 いづれは一緒になるだろうっ
 て、だから貴女の入る余地は
 ・・・・・・」

「私、用事があるので帰ります
  
 皆さんに
 そう伝えてください」
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