蜜林檎 *Ⅰ*
樹は急いで、その場を離れ
杏を追いかける。

「イッキ」

樹の行動に

誰もが驚いている。
 
「どうした、イッキ?」

真剣な表情で歩いていく樹に
御手洗いから戻って来た
千里が声をかけたが、彼は
全く気がついていない。

樹は、ドア付近に立つ
ウェイターに杏の事を聞く。
  
「さっき一緒に来た彼女
 どっちに行ったか分かる?」

「確か、左の方へ
 走って行かれました」

「ありがとう」

形振り構わず、素のままの姿で
お店を飛び出し、辺りを見渡し
一生懸命に杏を探す樹は遠くに
彼女の姿を見つけた。

「杏ちゃん」

杏は、樹の声に気がついたが
振り返らずに歩き続ける。
 
何故なら、涙を彼に見られたく
ない為に前だけを見つめていた
< 124 / 337 >

この作品をシェア

pagetop