蜜林檎 *Ⅰ*
「もう遅いし
 
 車で送って行くよ」

「大丈夫です
 弱いくせにお酒をたくさん
 飲んでしまったからだと
 思います」
 
「危ないから・・・」

泣き顔の杏は、真赤になった瞳
で戸惑う樹の瞳をじっと見つめ
逸らさずに、言葉を投げかけた

「優しくしないで・・・
 ください、お願いだから
 もう放っておいてください
 皆さんのところへ戻って
 ください
  
 私は、一人でも
 大丈夫だ・・・から」
 
樹は、一生懸命に強がって
みせる杏の手を掴み
自分の胸に強く抱いた。
  
「心配だから、送って行くよ」

彼の体温と香水の甘い香り
そして、囁くような声に

杏の心は
静まり落ち着いていく。

人通りの多い路上で

抱きあう二人
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