蜜林檎 *Ⅰ*
ただじゃなくても目立つのに
それが、芸能人かもしれない
・・・周りがざわめき出す。
 
樹は、杏の手を取って
その場から走り去る。
 
二人の頬に、夜風が
優しく触れる。

杏を送り届ける車内では
二人とも、黙ったまま
沈黙が続く・・・

そして、あっという間に
川辺に着き、停車した。

シートベルトを外しながら
杏は、重苦しい空気の中
樹に声をかけた。

「今日は、せっかく誘って
 頂いたのに途中で帰って
 しまってごめんない  
 
 メンバーの皆さんにも
 よろしく、お伝えください」

樹は、少し微笑んで頷いた。

ドアに手をかけたまま杏は
もう一度、樹の瞳を真っ直ぐ
に見つめた。

「イツキさん・・・私
 明日から、また
 いちファンに戻ります
 ・・・」
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