蜜林檎 *Ⅰ*
煙草を吸う姿に見惚れる杏
だったが、ふと気がつく。
 
きっと樹は、この出来事を
誰にも知られたくないのだろう

もちろん杏自身も
誰にも話すつもりは無かった。

「ルリにも誰にも、イツキさん
 とこうなった事を話すつもり
 はありません

 昨夜の事は、私だけの心の奥
 に、大切にしまっておきます
 
 もう
 こんな事は二度と無いもの」

樹は煙草を灰皿に捨て、杏を
強く抱きしめ耳元で囁く。

「話してもいいよ

 君は、俺の恋人だから」

「・・・うそ」

「嘘じゃないよ」

抱きしめた樹の胸に、すっぽり
と隠れてしまう杏。
 
樹は、そんな彼女を
心から愛しく想うのだった。
  
黙っていた杏の唇が、ゆっくり
と開いた。

「ごめんなさい
 私は誰とも付き合うつもりは
 ・・・無いの」
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