蜜林檎 *Ⅰ*
煙草を吸う樹に杏は、ずっと
聞きたかった事を聞いた。
 
「イツキさん、ひとつだけ
 聞いてもいいですか?」
 
「なんでも、聞いていいよ」

「その、最初に会った
 ライブの時に一緒に
 いらした方とは・・・
 今は・・・」

樹は、煙草を灰皿に押し当て
捨てた後に、杏が誤解する事の
無いように彼女の事を説明する

「彼女、マリアが
 ちょうど今の杏ちゃんの
 歳の頃に、先輩のカメラマン
 の元で助手の仕事をしていて
 出会って俺達のファンだって
 聞いて意気投合したんだ
  
 その後、何度か
 別れては付き合ってを
 繰り返したけど、結局
 分かり合う事は
 できなかった」

樹の口から、まりあという名前
を聞いて、杏はやっぱり
あの時の細い腕の女性は
彼女だったのだと知る。

「今はもう、つきあうとか
 そういう関係じゃないんだ
 大切な仲間って感じかな
 心配いらないよ」

「はい・・・」

あんなに綺麗な人が

樹の元彼女・・・
 
自分など

彼女の足元にも及ばない。
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