蜜林檎 *Ⅰ*
百合の手を握る真の姿を
見た杏は、言う。

「仕事が休みの日は、私も
 手伝うよ」

杏の言葉に、雅也は
ほっと安堵する。

「アン、頼むな」

「ごめんね、アン
 安定期まで一ヶ月半ぐらい
 だから、どうぞ
 宜しくお願いします」

「ユリちゃんは
 心配しなくていいよ
 赤ちゃんの事だけ
 考えてね」

「ありがとう」

それからの杏は、バイトと
お店の手伝いを両立させて
息つく暇も無い程に
毎日を忙しく過ごしていた。
 
でも、どんなに忙しく、疲労感
でいっぱいになろうとも
樹に逢いたいと願う気持ちは
募っていくばかりだった。
 
ツアーの後に、たった一度だけ
杏が樹の誕生日に、電話で
お祝いの言葉を告げた以外は

全く連絡を取り合う事は
無かった。
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