蜜林檎 *Ⅰ*
もうすぐ、彼に逢える・・・

早く・・・

早く・・・
 
連絡を待っている時間は
とても歯痒い。

家中に響いた樹からの一度目の
着信音に目を覚ましてしまった
百合の眠りは浅く、廊下を走る
微かな足音に気づき起きあがる
 
時計は、深夜3時を
過ぎたところだった。

「こんな時間に・・・誰・・」 

百合は、こんな遅くに玄関を
出て行く杏の後姿に気づき
上着も着ないまま、彼女の
後を追いかけた。

杏は、駆ける・・・

真っ暗な道を、樹に逢う為に。
 
百合が、自分の後を付いて
来ている事になど、全く
気がついていない。

川辺に一台のタクシーが
停車している。
 
その傍らに立ち、暗い夜道を
照らす電灯の灯りを見つめて
いる樹の姿を見つけ

杏は、彼の元へと駆け寄り
樹の肩に両腕を回し、背伸び
をして一度だけ、軽いキスを
交わした後、間近に彼の瞳を
見つめた。
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