蜜林檎 *Ⅰ*
「やっと、逢えた・・・」

そんな杏の背中に両腕をまわし
愛しく抱きしめる樹。
 
二人は薄明かりの電灯の下
口づけを交わす。

遠くから、その姿を見つめる
百合。
 
過去に見覚えのあるその立ち姿

横顔に百合の胸が締め付けられ

胸騒ぎがする。

タクシーは、二人を乗せて
夜の町に消えて行く。

百合は、その場所に立ち尽くし
タクシーが走り去った方向を
見つめる。

遠く・・・

遠く・・・見つめる。

百合の記憶が

鮮明に甦ってくる・・・

熱気の込み上げるライブ会場

・・・・・・

舞台から差し出された

愛しい人の手
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