蜜林檎 *Ⅰ*
「イツキのお母さんの事
 聞いてもいい?
 昔、雑誌に載ってた・・・」

樹は、深呼吸をした後に
重い口を開いた。

「あの雑誌で語った事は
 全て真実だよ
 俺が7歳の時に、お袋は
 家を出て行った
 祖母と折り合いが悪くてね
 ・・・・・・
 よくある話だよ
 家庭を顧みない夫に、愛想
 を付かした妻が愛人を作り
 
 転勤で町を離れたその男の後
 を追って、あの人(母)は
 俺の前からいなくなった・・
 って訳」

冷笑しながら投げやりに話す
樹の目は、悲しく一点を
見つめていた。

「ここからは
 本には載ってない話・・・
 その男って言うのが、親父の
 一番の親友
 ある朝、あの人は、俺の両手
 を強く握り締めて言ったんだ

『いっちゃん、お母さんと
 一緒に行こう・・・』

 だけど、俺はその手を離して
 お袋を軽蔑の眼差しで見つめた
 ・・・」
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