蜜林檎 *Ⅰ*
エレベーター内

乗り合わせた住人達。
 
二人は隣同士に立ってはいるが
関係の無いフリを続けた。

杏は、階の数字がひとつひとつ
減って行く度に、この数字が
1を示せば、樹と別れなくては
いけない・・・
 
数字を見つめる杏の顔色は
曇っていく。
 
杏の気持ちが分かる樹は
誰にも気づかれないように
こっそり杏の手を握り締めた。
 
杏は、その手の温もりから
彼も自分と同じ気持ちなのだと
感じとる。
 
一階に着いて、杏は彼の手を
離れ、エレベーターを降りて
振り返らずにマンションを
出て行く。
 
樹も、車の鍵を手に駐車場へと
向かうのだった。 

杏は駅へと向かうが、この場所
は全く知らない。
 
どこをどう進めばいいのか
悩んでいた。
 
とりあえず歩いている人に声を
かけて道を聞こうとした

その時

クラクションが一度だけ鳴る。
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