蜜林檎 *Ⅰ*
「あの家に、私の居場所は無い
 ・・・・・・
 どうして、ママは
 私を置いて出て行ったの?」

彼女の悲痛の叫び声は

樹の心に突き刺さった。
 
心に、同じ傷を持つ百合を
樹は黙ったまま

ありったけの力を込めて
抱きしめた。

それからも、百合と雅也の
言い争いは続き
 
今日もまた・・・

彼女は一人、涙を流す。
 
樹は、百合を抱きしめ告げた。

「俺と貴女は同じ傷を持つ
 ・・・泣かないで
 俺がユリ、貴女を守るから」

初めて樹と目が合った

・・・あの時
 
彼の瞳の奥にある、孤独

寂しさを、百合は見た。

それはまるで、鏡に映る
自分自身の瞳、そのものだった
 
その時、百合は樹に心を奪われ
彼に惹かれた。

「あり・・・がとう」

ゆっくりと瞼を開けると

ここは現実。
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