蜜林檎 *Ⅰ*
「ユリ・・・どうかした?
 親父さんと喧嘩でもした?」

「ううん、お父さんとは
 仲良くしてるよ
 昔なんて、顔を合わせれば
 喧嘩してたのに
 今じゃ一番の理解者だもの
 あんなに出て行きたいと
 思っていた家に20歳を
 過ぎた今も住んでるなんて
 自分でも驚いてるの」

「ユリ・・・一緒に・・・」

百合は、わざと樹の声の上に
自分の声を被せた。

「映画の撮影は
 どんな感じなの?
 待ち時間が長いって本当」

『今は、まだ・・・
 一緒には住まない方がいい
 樹やバンドの重荷には
 なりたくないの』

本当の百合の気持ちは・・・
 
今すぐにでも、樹の胸に
飛び込みたい
 
一緒に暮らしたい・・・
 
彼女は、その気持ちを
押し殺して、わざと明るく
はしゃいでみせる。
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