蜜林檎 *Ⅰ*
雅也は、お店の開店準備に
追われて忙しくしていた。
 
「ユリちゃん・・・
 みて、りんご」

居間で幼い杏の世話をして
いた百合は自分に話しかけ
絵を描く杏を放っておいて
テレビの画面を夢中で
見つめている。
   
「ユリ、ちょっと
 手伝ってくれないか・・・
 あれ、イッキじゃないか
 どうした?」

それは、樹と映画で共演した
女優との熱愛騒動の模様が
ワイドショーで流されていた。

「ユリ、こんなくだらない
 テレビ、消さないか」

百合はテレビを消さずに
ただ、ぼーっと
コメンテーターの話を
聞いていた。

店の営業時間が終わり
のれんを外す雅也の元へ
樹が駆けて来た。
< 240 / 337 >

この作品をシェア

pagetop