蜜林檎 *Ⅰ*
その手紙の存在を、初めて
知った樹は、自分の不甲斐なさ
に腹が立ち、手紙を握り締めた
 
「俺、何してたんだろう
 ユリが一生懸命に俺に
 助けを求めていたのに
 
 気がついてやることが
 できなかった」

樹の肩を叩く、雅也。

「もう、心配はないらしい・・
 今後また
 自殺を図るかも知れない」

樹は、病室のドアを開けたまま
ベッドに横たわる百合を見つめ
その場所から動けなくなる。

百合の傍へ・・・

行く事ができない。

躊躇している樹の背中を押して
彼を百合の元へ導いてくれた
のは、朔夜だった。

傷ついた彼女の左手に、そっと
樹は触れた。
 
その肌の温もりに彼女が
生きている事を実感する。

百合を失っていたかもしれない
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