蜜林檎 *Ⅰ*
樹は、出かけているの・・・

杏は、彼の名前を呼んでみた。
 
すると、寝室から樹の声が
聞こえた。

「杏・・・ちょっと・・・」

杏は早く樹に逢いたくて
彼の言葉を最後まで聞かずに
寝室のドアを開いた。

すると、樹はちょうど着替えの
途中で上半身裸で、Tシャツに
首を通すところだった。

「ごめんなさい」

慌ててドアを閉めた杏の顔は
真赤になり、リビングの
ソファーに座って、意味もなく
買い物袋をあさる。

「杏、駅からここまで
 迷わなかった?」

「うん・・・」

杏は、照れくささから樹の顔を
見る事ができずに

今日、買ったばかりの洋服を
袋から取り出して見つめている
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