蜜林檎 *Ⅰ*
樹の後姿は、まるで杏を
この場所から追い出すように
さえ感じた。
 
杏は、寂しい気持ちで
いっぱいになる。

二人は、何も話さないまま
駐車場へと向かい

車に乗り込んだ・・・
 
しかし、樹は車のエンジンを
かけない。

「イツキ・・・」

樹は杏を見つめる・・・

「どうしても
 帰らなきゃいけない?
 俺は貴女と一緒に居たい」

樹の言葉に、杏の瞳から
涙が零れた。

「びっくりした・・・
 イツキ、怒ってるんだと
 思ってた
 私の事、追い出そうとして」
 
杏の涙に、そっと触れる。

「ごめん・・・怒ってないよ」

「私も、貴方と一緒にいたい」
< 265 / 337 >

この作品をシェア

pagetop