蜜林檎 *Ⅰ*
「わたしは、なんて汚い
 わたしは、なんて醜い
 どうしてママは、人のものを
 奪ったりしたの?
 どうしてママは私を産んだの
 ・・・?
 わたしなんて・・・」

「やめろ・・杏、やめるんだ」

樹は、悲鳴を上げ

今にも壊れてしまいそうな杏を
 
力強く抱きしめた。 
 
百合が暗闇の中、自分の存在
理由を探し続け
嘆き悲しんだように・・・
 
杏もまた同じ暗闇の中を
自分の存在を拒絶して
嘆き悲しんでいる。

「私は、子供ながらに思った
 自分の母がした事は
 許される事じゃない
   
 そんな、母のようには
 なりたくない
   
 愛に溺れて、大切な事が
 見えなくなるくらいなら
 人を愛したりしない・・・
 
 そう決めた」

杏は樹の頬に

優しく両手をあてる。  
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