蜜林檎 *Ⅰ*
朔夜の声に、隣にいた関係者は
驚いた様子で樹に問いかける。
 
「野瀬さん、彼女
 いらっしゃるんですか?」

「いちゃ駄目ですか」

樹は、少年のように
悪戯に微笑んだ後、メールを
確認してから朔夜の耳元で言う

「ちょっと、電話して来る」

「行っといで」

誰もいない廊下の隅、壁に
もたれて杏に電話をする。

「杏、俺だけど・・・
 今、メール見たよ」

「ごめんね
 仕事中だったよね?」

「うん、今日は
 ずっとレーコーディングで
 スタジオの中にいるんだ
 
 今、ちょうど空き時間になった
 から電話できたよ
   
 この間、杏に連絡しないで
 そっちに行ったんだ」

「じゃあ、ユリちゃん・・・
 ううん、お姉ちゃんが
 言ってた事は
 本当だったんだね」
 
「えっ、ユ・・お姉さん
 俺たちの事を知ってるの?」

百合が

知っているかもしれない・・・
 
その事実に驚いた樹は
つい強めの声になる。
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