蜜林檎 *Ⅰ*
懐かしい樹の姿に、百合の瞳が
キラキラと輝く。

「ユリこそ
 昔と少しも変わってないね」
 
「本当、うれしい」

あの頃と何も変わらない、百合
の笑顔に樹は救われる。
 
百合の長袖から覗く左手首の
白いサポーターに、樹の目が
止まる。

「ユリ、あの時は
 ・・・ごめん」

「もう昔の事だから謝らないで
 ・・・樹から逃げたのは私

 ・・・悪いのも私」

「そんなこと無い
 気づいてやれなかったのは
 俺だ」

百合は、昔の事をとやかく言う
のは、もうやめるべきだと思い
強い口調で話す。 
 
「もう、止めましょう」

沈黙が二人を包んだ。
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