蜜林檎 *Ⅰ*
「それよりも、ロビーの人達に
 イツキだって事、ばれて
 いないかなぁ

 どうしよう、ごめんね」

樹は、杏を抱き寄せて胸に抱く

「ばれたって構わないよ・・・
 堂々としてればいい」
 
杏は、樹の胸に身を寄せて
張り詰めていた心を
落ち着かせる。

ここは、ホテルの一室。
 
少しのお酒を飲んだ後、仕事で
疲れていたのか樹は、深い眠り
につく。
 
その寝顔は、少年のように儚く
美しい。

目覚めれば、彼はまた一人の
男性として強く逞しく
弱音を吐く事も無く、力強く
歩んで行く。

杏は母性で彼を抱きしめ

彼の頭を優しく撫でる。
 
街の明かりで薄明るい夜空に
たった一つだけ輝く星がある。

その星の、ほんの僅かな光が
杏と樹に降り注ぐ。

星は、二人を見守る。
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