蜜林檎 *Ⅰ*
「着いちゃった・・・イツキ
 お仕事、がんばってね」

「ああ、時間ができたら
 連絡するよ」

「無理しなくていいよ
 仕事を優先してね
 
 お父さんに会うのは
 いつでもいいから・・・」

樹が頷いた後、杏は助手席の
ドアを開ける。
   
「じゃあね
 イツキ、バイバイ」

車を降りようとした杏の肩に
手を置いた樹は言う。

「杏、イベントが終われば
 長い休暇に入れるだろうから
 どこか二人で旅行でもしよう
 どこに行きたいか
 考えておいて」

「ほんとう、イツキ・・・
 私、うれしい」

杏は狭い車内である事を忘れて
樹の肩に腕を回して抱きついた
 
驚いた樹の肘がクラクションに
あたり静かな朝の町に

音が鳴り響いた。
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