蜜林檎 *Ⅰ*
百合に一度だけ見せてもらった
写真。
 
百合の母親の綺麗な横顔が
杏の脳裏に浮かんで消える。

「・・・あの女性(ヒト)は
 ユリちゃんを捨て、この家を
 出て行った
 
 そして、私は生まれた
 
 どうして・・・」

幾ら投げかけても、その答えは
返ってはこない。
 
もう母は、ここにはいない。

事実を知った時、杏は
自分の存在をこう思った。
 
『なんて汚い存在

 人の不幸の上に

 生まれた命』
  
そして、百合が杏を見つめる
目線が憎しみを帯びているよう
に感じられ、それから
距離をとるようになった。
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