蜜林檎 *Ⅰ*
今でこそ、普通に会話はするが
お互いの深い部分を見せ合った
事など、一度も無い。
  
杏は、鏡に映る自分を冷たく
見つめて、言って聞かせる。

「恋に溺れるなんて

 どうかしている
  
 私は、恋なんてしない」

杏の心は、硬く閉ざされていた

でも、ただひとつ

樹に憧れる、この想いだけは
彼女自身も止めることが
できないでいた。
 
触れられなくていい・・・

遠い存在でいいの・・・

樹の優しい声が

杏の心に染み入る。
< 63 / 337 >

この作品をシェア

pagetop